東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2765号・昭34年(ネ)1827号 判決
控訴代理人において、本件事故は交通法規を無視して交叉点を暴進してきた被控訴人山崎の重大な過失に基くもので控訴人には過失はない。すなわち、道路交通取締法第一七条第二項によれば、交通整理の行われていない交叉点に異つた方向から同時に入ろうとする場合においては、右方のものは左方のものに進路を譲らなければならないことになつているから、運転者としては、左から交叉点に入る車(すなわち自己に優先する車)がなければ、たとえ右から交叉点に入ろうとする車を認めてもそれが自己に優先する緊急自動車でない限り、道を譲る必要はなくそのまま直進して差支えなく、従つて本件の場合、控訴人としては、前方の安全と左方から交叉点に入ろうとする車がないことを確認すれば、右方からの車を認めてもその車は控訴人に道を譲らなければならない関係にあるから、そのまま直進して差支えなく、これに反し控訴人山崎としては一旦停車して控訴人に道を譲らなければならない状況にあつた。かかる場合、自動車運転者にとつては、右方の被控訴人山崎の車がそのまま進行して来るとは考えられないことであつた。しかも、控訴人は交叉点通過に必要な徐行をしていたのに被控訴人山崎は一旦停車して控訴人に進路を譲ろうとせずそのまま直進したため本件事故となつたものである。
判断
そして、自動車の運転者は、本件のように左右の見透しの悪い交通量の多い交叉点を通過するにあたつては、一旦停車し、或は速度を十分落して衝突など咄嗟の事態に対しても十分にこれをさけうるようにし、前方はもちろん、左右を注視し、その安全を確め、しかる後通過するなど事故の発生を未然に防止すべき義務あるものというべきである。ところが右認定事実によれば、本件事故は、控訴人の運転者としての右注意義務を怠り、殊に右方を注視することが十分でなく、漫然進行して右側から進行してきた被控訴人山崎の発見が遅れ同人が衝突の事故を起すような状態で交叉点に進入してくるのに気付かず引いては自己の自動車の速度の低減や急停車の処置が遅そかつたことに基因し、控訴人の過失が一つの原因をなしているものというほかない。控訴人は本件交叉点通過にあたつては道路交通取締法規により、控訴人に優先権があるから過失がないことを強調する。本件事故当時適用されていた道路交通取締法第一七条第二項には、控訴人のいうような規定があり、これが過失の判定に一つの重要な標準となるのはもちろんであつて、本件交叉点通過に際しては、なるほど被控訴人山崎としては控訴人に進路を譲らなければならなかつたわけであるから、同人の過失はもちろんのことではあるが同時にまた他方控訴人としても、交叉点を通過する際には交通法規による優先通過の権利だけに頼るべきではなく、右方から来る車にもその速度や運転の態度、自己の車に対する注意の程度、右方から来る車が果して自己の車を優先的に通過させるような仕方で運転しているかどうかなどについて詳細な注意を払い、それに対応して衝突をさけうるように自己の自動車の速度の調節や停車の処置などをしなければならないものであるから、右のような規定があるからといつて自動車運転者の前記事故発生防止の義務が解除されるわけのものではなく従つて控訴人には本件事故発生につき過失があつたものといわざるを得ない。ただ、前記認定の事実によれば、被控訴人山崎にも速度の低下、停車の処置、控訴人を優先的に通過させることなどの点に欠くるところがあり、本件事故発生につき相生に程度の高い、控訴人の過失以上の過失のあつたことを否定し得ないことは右に説明するとおりである。
(薄根 元岡 小池)